成人の日、孤独な僕を救ってくれたプルシェンコ先輩

「今から飲みませんか?」

成人の日、僕はとうとうメールを送ることができなかった。

孤独感を消し去るために誰かと飲みたかったが、「自分から連絡するのはダサい」というクソみたいなプライドが、メールの下書きを削除させた。
 

僕には地元の友達がいない。

母からは「成人式は帰って来んと?」というメールが入っていたが、「別に会いたい人もおらんし帰らん」と、そっけなく返した。

母からそれ以上の返信はなかったが、今となっては少し後悔している。

せめて写真だけでも撮りに帰ればよかったかな。
 

僕は中学受験をして、電車で40分、そこからバスで20分かかる私立中学へと進んだ。

本当は地元の公立中学校に行きたかったが、母の期待に応えたくて受験を頑張ってしまった。

合格発表の時は、「あぁ、とうとう受かってしまった・・・・・・」という複雑な気持ちだったが、横で泣いている母を見て、「これで良かったんだ」と思い聞かせた。

でも、最近までずっと、このことを後悔していた。

周りは驚くほど優秀な生徒ばかり。すぐに落ちこぼれてしまい、「自分はダメな人間だ」と思うようになった。

おまけに男子校である。中学高校の6年間を男子校で過ごしたことは、一生消えることのない青春コンプレックスを生み出した。
 

中学に入る前から、地元の友達との距離は少しずつ離れていた。

小学6年生になると、塾の休みは月曜日だけ。平日は18時から21時まで、土曜日は10時から19時まで授業。日曜日は毎週テストが実施された。

夏休みも毎日、朝から晩まで夏期講習。家でも深夜まで勉強。

そんな生活だから、地元の友達と遊ぶ暇なんてまったくなく、精神的にも疲弊していた。

それでも、合格してから入学するまでの約2カ月間は本当に楽しかった。

母は「受験が終わったら勉強しなくていい」と言っていたので、僕はその通りに遊び呆けた。

友達を集めて朝から晩までマリオカートをするような日もあったが、母は何も言わずに遊ばせてくれた。

今思えば、それが母なりの償いだったのかもしれない。

「小学生に朝から晩までずっと勉強させるなんて異常だ」って、心の中ではわかっていたのかもしれない。
 

中学に入ると、あっという間に地元の友達との交流はなくなった。

僕は新しい学校でそれなりに友達ができたが、家に帰ると何とも言えない孤独感があった。

地元の友達の中で、僕の存在が消えようとしていることが寂しく感じられた。

僕は最寄りの駅までチャリで通っていたが、わざと遠回りをして向かうこともあった。

地元の中学校の通学路を疾走して、僕の存在をアピールするためだ。

声をかけてくれる友達もいたが、自分から行ったくせになんだか恥ずかしくて、手を振るだけで走り去った。
 

高校生になると、電車で地元の友達と出会うこともあったが、お互いに「おう」と言うだけで終わった。

名前を何て呼べばいいのかもわからない・・・・・・。もはや過去の友達となっていた。

その頃には地元での孤独感もなくなっていたが、大学は県外に行こうと決めていた。

中学高校で落ちこぼれ、学校にうまく馴染めなかった僕は、自分のことを知る人が誰もいない場所で、つまらない過去を消し去りたかった。

そして地元を離れ、楽しい楽しい大学生活が始まった。
 

大学に入ってすぐ、僕は一人の先輩と仲良くなった。

金髪にロン毛、フィギュアスケートのプルシェンコのような顔立ちで、カリスマ性は抜群。

田舎から出てきてワクワクしていた僕の心を、一瞬でつかみ取った。

プルシェンコ先輩は、後輩の面倒見もよく、みんなから慕われていた。

しかし、類は友を呼ぶとはまさにこのこと。

彼もまた、中高6年間を男子校で過ごし、心の闇を抱えていたのだ。
 

大学では本当にいい友達に恵まれて、とても楽しかった。

中学高校時代の話を聞くと、「やっぱ共学うらやましいなあ」とか思うこともあったが、とにかく今が楽しかったので、過去なんてどうでもよくなっていた。

でも、成人の日、心の闇が一気に噴き出してきた。

大学の友達はみんな、成人式に出席するため地元に帰っていた。

中学校の同窓会があるとか楽しそうに話していたが、正直、死ぬほどうらやましかった。
 

成人の日はバイトでも入れようかとも思ったが、色々突っ込まれたら嫌なのでやめた。

でもやることがない。何もしていない時は、心の闇がどんどん大きくなっていく。

「地元でも同窓会あるのかな」とか、「中学受験にわざと失敗すればよかった」とか、ネガティブが止まらない。

この気持ちを共有できるのはもう、あの人しかいない。

そして、「今から飲みませんか?」というメールを書いたが、なかなか送信ボタンを押せない・・・・・・。

とても気持ち悪いことだが、なんと「誰かから誘われたい」と思っていたのだ。

結局、1時間ぐらい携帯を持ったまま悩んで、メールの下書きは削除した。

「今日は一人でやろう」と、スーパーに酒を買いに行った。
 

ビールとウイスキーをたっぷりと買い込んで家に着いた頃、ついに携帯が鳴った。

「飲もうぜ!」

「すぐ行きます!」